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吉江忠男さん、平井千絵さんの《白鳥の歌》

オランダ時代からの旧友であるフォルテピアノ奏者、平井 千絵さんと、生きる伝説とも言えるバリトン歌手、吉江忠男さんによるシューベルト《白鳥の歌》。
このお二人の演奏は、昨年12月の山梨でのシューベルティアーデに始まり、今年5月の《美しき水車小屋の娘》と共演した全ての演奏会を聴いたし、お二人それぞれの素晴らしい演奏は沢山聴いている。
しかし今回は特別だった。
私は学生時代、シューベルトの作品がそれほど好きになれなかった。他のシューマン、ブラームスといった作曲家の作品の方がずっと気に入っていた。たぶん昨日の昨日までたぶん本当の魅力に気づいていなかったように思う。
それほど、お二人の昨日の演奏でシューベルトの作品の美しさ、妖しさ、怖さ、危うさ、泣きたくなるようなその魅力がようやく少し分かった気がするのだ。
吉江先生の声はあまりに瑞々しく、50代の絶頂期の歌手としか聴こえない。こんな美声が世の中にあるのか、と思う。高校生の時に音楽室でハンス・ホッターの歌唱を聴いて衝撃を受け、歌手を志してから60年以上。その歌唱を維持するどころか、さらに進化しているとおっしゃる吉江先生が、日々どれだけの努力を”喜び”とともに重ねているのか、常人には想像しえない。亡き奥様に21年前に誓った約束…様々なことが勝手に頭をよぎる。
千絵さんがオランダ王立音楽院のあのセンセーショナルな卒業試験演奏で、その年の最も優秀な卒業生に贈られるニコライ賞を受賞した時からもうすぐ20年…その試験前に語らったことが蘇る。昨日の演奏は千絵さんらしい歯切れの良さと相まって余計なものが削ぎ落とされた深い落ち着きもあり、それぞれの曲の本質がハッキリ浮き上がるようでゾクゾクした。
歳を重ねることがこんなにも美しいのかと感じた。
この作品をお二人によって、またやはりフォルテピアノで聴けたこと。写真2枚目に写っている太田垣至さんのような尊い職人による調整が入ることで初めてあるべき形で私たちに届けられること。
お二人の次なる挑戦は2023年4月15日(土)午後、Hakujuホールでのシューベルト《冬の旅》。
あろうことか私はオペラの非常に重要な稽古と重なってしまった…
何とか魂を会場に届けたい。
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Seika Kawaguchi

声楽家。山梨県甲府市出身。新潟大学教育学部、同大学院教育学研究科にて声楽を専攻した後、渡欧。オランダ王立音楽院のソロ声楽科で学び、国家演奏家資格を取得し卒業。フランス・ドイツ歌曲を中心に、バロック声楽曲、宗教曲、現代曲まで幅広いレパートリーを持ち、国内外で演奏活動を行っている。

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